19  真実

 

 ラグ・シャヒルはサン・ジェルマンにまじないを掛けられ、自分の心の中に閉じこめられていた。心の殻の中で戦い、もがき続けている。ラグは情報センターでも同じような状態に陥ったことを思い出し、自分の意外な弱点を思い知らされた。伯爵は傲慢という言葉を使った。それが心のどこかに引っかかった。自己を自由闊達な状態に解放して、この殻を破ることが出来れば、一気に自分の意識を再統合出来そうな気がするのだ。何かのきっかけが欲しかった。また、いつまでもこのままでいると、自己が崩壊する危険も感じていた。

 エレーヌは、カウチに寝ころんでいるラグを起こそうと彼の背中を支えた。ラグは、ベッドに寝かせておけば寝返りも打たない。イスに座らせれば、同じ姿勢のままじっとして少しも動かなかった。

 ふとした拍子にラグのポケットから薄緑色をした玉が転がり落ちた。それは床を転がり、部屋の隅までいくと自然に方向を変えて足下まで戻ってきた。エレーヌはその不思議な動きを見せる玉をつまみ上げた。

「ラグ、この玉は大事なものなんでしょう。私の言っていることがわかる?」

  エレーヌはそう言って、拾い上げた玉をラグのポケットに押し込んだ。

 ラグの視線は依然宙を漂ったままである。ところが、ラグの手がそろそろと動いてポケットの上をまさぐっている。ポケットの中の玉を確かめるように手が動いているのだ。

「まあ。私の言ったことがわかるのね。」

 エレーヌはラグの意識がどこかで目覚めていることを知った。それを知らせたいと思っても、イピもヌークも出かけている。ジョセフィーヌは化粧水を運ぶために何度も出入りしているのだが、あいにく今はいない。

 玄関が開く音がした。エレーヌはさっそくラグの様子をジョセフィーヌに知らせようと思った。ところが、入り込んできたのはエレーヌの知らない男だった。貴族のようで大層身なりがいい。

「どなたですか。」

 エレーヌの問いに答えようともせず男は大股で廊下を歩き居間に入った。靴音をたてて部屋の中を歩き回る。

「化粧水を出せ。あれは私のものだ。」

 エレーヌは公爵がやってきたのだと分かった。ブランビリエ夫人とヌークたちの話を聞いていたため、エレーヌには公爵の言うことが的外れであることを知っている。

「それなら、ブランビリエ夫人が話し合いで決めたわ。」

 公爵は少女の言葉に過敏な反応を示した。 

「この私に逆らうつもりか。」

 公爵はエレーヌの腕をつかんで突き飛ばした。エレーヌは椅子に当たって床に転び、大きな物音をたてた。

「ふん、おとなしく渡せばいいのだ。」

 公爵は隣の部屋に入った。そこには、置物のようにラグが座っている。公爵は見知らぬ男が居たことにぎょっとした。

「これは失礼。誰もいないと思ったのでね。」

 何の反応もない。

「なんだ、こいつは。」

公爵はラグの目の前に手をかざして動かしてみた。やはり、反応はなかった。

「ふん、でくのぼうか。白痴美とはこのことだ。」

 公爵はラグの顎をつかんでその美貌に見入った。

「やめて、病気なのよ。」

 エレーヌが駆け込んできて二人の間に割って入った。額に擦り傷をこしらえている。

「化粧水は、そっちにあるわ。」

エレーヌは部屋の隅を示した。化粧水の瓶はそこに積み上げて布をかぶせてある。エレーヌの額に血が滲み、その傷の痛みと悔しさで頬に涙が流れた。公爵はそんなことに気を留めなかった。床を踏みならして部屋を横切り、白い布をはぎ取った。ぎっしりと積み上げたられたガラス瓶を見て公爵の顔に満足気な笑みが浮かんだ

「これか、ずいぶんある。それに、、、」

エレーヌとラグも売り物になりそうだ。貴族階級には公然とした地下マーケットがある。人身売買など日常茶飯事であり、美貌の青年や少女は高く売れる。公爵は再びエレーヌに歩み寄り、ラグの体に回された腕をねじりあげた。

「放して。」

「おとなしくしろ。農民の娘と聞いているが、悪くない。服を脱いでみよ、値段を決める。」

ラグは目の前で起きている異常事態に為すすべがなかった。耳は聞こえ、目も見えるのだ。ただ心の一部がどうにもいうことをきかない。

公爵は唇の横に笑みを張り付けたまま、エレーヌのブラウスに手をかけ、力任せに引きちぎった。エレーヌの顔が怒りと羞恥にゆがんだ。ラグは、卓越した能力を誇る自分が少女一人を救えず、されるがままの陵辱を受けていることに目のくらむような激しい怒りを覚えた。能力とはいったい何をさすのか。自分自身を統御できず、適当な場所で力を発揮できない者ほど、無能な者はいない。そう考えたとき心の殻にひびが入り、さらに心の内圧が高まろうとしたとき、たくましい女丈夫がラグの視界を横切った。

 公爵の肩をつかんで力まかせに振り向かせる。

 がしっ。

 鈍い大きな音がした。

 ジョセフィーヌの強烈なパンチが公爵の顔面をとらえていた。公爵は崩れるように床に倒れた。

「エレーヌ、乱暴されたのかい。おお、かわいそうに。」

ジョセフィーヌはエレーヌの顔を両手の間に挟んで額にキスをした。

ラグは心の中でジョセフィーヌに深く感謝した。あのままエレーヌ

の姿を見続けていたとしたら、自分自身もまたどうなっていたか分からない。

 

 サン・ジェルマンにはイピの話があまりにも意外だった。

「あのコイルマンが雑用仕事をやらされているというのか。」

「雑用仕事という感じのものとは違う。イアンは数千本の腕と、数万個のカメラアイを持った巨大ロボットに進化を遂げている。」

「私の知っているものとはずいぶん違う。」

 サン・ジェルマンは、遠い昔の記憶をたどるように視線を宙に漂わせた。それは、失望の表情を隠す仕草でもあった。イピは映像を消した。

「僕の知る限り、あれほど巨大で高性能のロボットは他にない。その規模は、ほとんど地平線まで大地を覆っている。プログラム・マルコムにしても奇跡の産物だよ。」

 サン・ジェルマンは独り言のように語り始めた。

「私の知っているコイルマンの話をしよう。ずっと前の話だ。コイルマンは半径一キロぐらいのドーム状ロボットだった。そこから、直径一メートルほどの球形の端末ロボットを何百個も排出して様々な場所に配置していた。小型ロボットは宙導師と共に本体から遠く離れて別の世界を探査することもあった。その中の一つが私の前に現れたのだ。その小型ロボットは、人のホログラムを作り出すことが出来、名を尋ねると、彼はコイルマンと名乗った。」

 イピは手に持った玉をサン・ジェルマンに手渡した。

「球形のロボットというのは、これのずっと旧式のタイプだと思うよ。」

 伯爵は、それを手にとって調べた。

「これが、あの球形ロボットの進化形か。ずいぶん小さく、軽くなったものだ。これは、意志を持たないのかね。」

「ホログラムを作り出す機能があり、この装置同士で情報交換をすることができる。かなりの記憶容量があり演算能力がある。だから、球形ロボットの機能を改良したものだと言える。ところが、たった一つ失ったものがある。」

「自由意志をうしなったのか。」

 イピは頷いた。

「自由な意志決定を制御されているという方が正しい。」

「ではコイルマンとしての意志はもはや存在しないのか。」

「今見せた子鬼のイメージが中央の情報センターで稼働している。完全な意志を持っているように感じることがあるけれども、積極的にそれを表すことはない。」

 伯爵は、何も言わずに実験室の端の方に歩いていき、木製のキャビネットから一抱えほどの黒い重厚な木材で出来た箱を取り出した。それを手近なテーブルの上に置いて、イピの玉をその上に乗せた。

「はて、データの形式が違うのか。何も映らない。」

 伯爵は、箱のふたを開け、内部のスイッチをいろいろと操作したが変化はなかった。

「何か見せてくれるつもりなら、僕がやろう、端末機の扱いには自信がある。」

 伯爵は、イピに交代するように優雅な身振りで木箱を示した。イピは、木箱の内部を見ておおかたの見当をつけ、自分の端末との接合を試みた。何度かの試行錯誤を経て、木箱に変化が起こった。しきりにカチカチと音を立て、ぶんぶん唸りはじめた。

「これでいい、これは旧式の記憶装置だ。まだ十分に使える。」

 伯爵は、イピの手並みを見て賞賛の拍手を送った。その態度が次第に紳士的に変わってきている。ヌークはエリクシーの効き目が顕れてきたのだと思った。

 木箱に保存されていた立体画像が映し出された。それはぼんやりとして、いつも見慣れた鮮明な映像ではなかった。しかし、イピとヌークは初めて見る立体画像を身を乗り出して見つめた。大型ドームのようなロボット。まわりに小さい球体がいくつか見えていた。このようなものは宙導師の歴史についての講義に登場してこない。本来なら、候補生が当然知っていていいはずの事柄である。

「こんな映像は見たことがない。」

 ヌークは思わず呟いた。

「やはり、自動ロボットの記録に関しては意図的に消されてあるんだ。」

「なぜ、そんなことをする。全部見せればいいじゃないか。歪曲された歴史など学ぶ価値はないぞ。」

「わからないな。」

イピとヌークの疑問点は同じだった。イピは端末の記録装置を始動させ、先ほどの映像を遡って記録した。

 イピ、ヌークともにサン・ジェルマンに尋ねたいことが山ほどあった。それに応えるようにサン・ジェルマンが語りはじめた。

「私は、すでに二十世紀余りを生きている。この長い人生の中で何人もの友人を得た。妻も娶った。その皆を愛した。当然ながら、彼らはやがて年老いて死んで行く。私だけが歳をとることもなく生き続ける。この意味が分かるかね。」

 サン・ジェルマンの声は震えた。

「私は孤独だった。それに耐えてきた。悲しみや喜びの感情は誰よりも豊富だろう。私の中には、普通の人間の何倍もの感情量がある。長く生きることで積み重なった感情であり、あるいは、その感情量が私の命を長くしているのかも知れない。死は、決して肉体が弱った結果ではない。心が破れたときに訪れるのだ。」

 ヌークは深刻に頷いた。

「ある日、迎えが来た。若い宙導師と球形のロボットだった。彼らは、私を別の世界に連れていってやろうと言った。私に断る理由はなかった。」

  イピとヌークは伯爵の言葉の重さを感じた。カリオストロは完全に言葉を失っていた。

「ゼーランドでの日々は夢のようだった。毎日が楽しく新しい発見の連続であり、私は留学生のように学んだ。コイルマンは私の感情を理解し、それを忠実にコピーした。コイルマンに感情を与えたのは私なのだ。いつまでもゼーランドに居続けたかったよ。」

「なぜそのまま留まらなかったのです。」

 ヌークは心からそう思った。

「そうしたかった。しかし、私には怒りや悲しみの記憶が多すぎる、またそのような衝動が押さえきれない。私の居場所はやはりここなのだ。ただ、コイルマンはこう言った。必ずまた会おう、とね。その日が来るのをずっと待っていた。唯一、別れの日が来ない友だと思っていた。」

「コイルマンに会えたとしたら、何がしたかったんだい。」

 イピの質問にサン・ジェルマンはしばらく考えてから答えた。

「わからんね。またゼーランドに行けるとしたら楽しいと思う。それとも、この世界の話を聞かせてくれるだけでもいいのだ。世界は驚異に満ちている。例えば、地球の失われた文明の手がかりを与えてくれたら、それを調べてみたい。私に与えられた時間は長い。」

イピはサン・ジェルマンの瞳をのぞき込んだ。

その瞳の奥にあったものは、まさしく広大な記憶の海だった。また、これほど豊かな感情の世界をイピはかつて見たことがなかった。

「コイルマンがあなたの感情を写し取ったのなら、それはどこかにしまい込まれてあると僕は思う。マルコムが用いる子鬼のイメージは利用者が心理的な抑圧を受けないように配慮されたものだとマスコットが言ったことがあるんだ。」

イピはマルコムについて思いを巡らせた。

「これまでマルコムが僕の端末に進んでプログラムを植え付けることはなかった。そこに何らかの意図があったのではないだろうか。」

ヌークはイピの次の言葉を待った。命題から一気に結論を導く能力はヌークの及ぶところではない。イピの問いかけは、イピ自身に発せられたものなのだ。

「マルコムは、マスコットを送り込むことで何らかのメッセージを伝えたかったのではないか。もしそうなら、、、。」

イピはマスコットの機能制限をすべて解除し、端末機にある全データとサン・ジェルマンの記録装置との比較検討を開始した。

「マスコット、もし君がマルコムだったらと仮定して、伯爵に伝えたいと考えられる内容を推理して話したまえ。」

イピの端末は過負荷を訴えて激しく明滅した。マスコット・プログラムが要求する処理能力が小さな端末では限界を越えてしまうのだ。

小鬼の立体映像が静かに変貌を遂げた。浅黒い肌色、ゆるくウエーブした髪、印象的な黒い瞳を持った柔和な顔立ちの男性に変わった。

サン・ジェルマンの顔に激しい喜色が浮かんだ。

「コイルマン!」

「やあ、君か。久しぶりだ。正確には百十二年と二十五日ぶりになる。」

「そんなになるかね。」

「過ぎ去った時間は短い。今度会えるのはいつになるかな。」

「もう行ってしまうのか。」

「これは手紙だよ。ゼーランドに君からの返事が届くことを期待する。それと、この候補生から君の欲しい情報を受け取ることができるはずだ。読みこなすのに何年もかかるだけのボリュームがある。僕からのささやかな贈り物だ。」

それだけ言うと、コイルマンの姿がぼやけ、再び小鬼のイメージに変わった。

「見事だ。」

 サン・ジェルマンは目を閉じて語った。

「私は白日夢のなかにコイルマンの姿を思い描くことがある。しかし、それはやはり夢でしかない。現実に目の前で描かれるものとは違う。今の映像の印象や話し方はコイルマンそのものだった。君の手並みに最大の賞賛を送る。」

イピは伯爵の顔に寂しげな微笑みが浮かんでいるのを見た。

「あなたは勘違いしている。今の映像は僕が作り出したものではない。まさしく、コイルマンが自身の存在を証明しない形で、巧みに送り込んできた手紙なんだ。今、コイルマンの印象そのものだと言ったじゃないか、それが何よりの証拠だ。」

「コイルマンの魂の言葉と言えるかね。」

「その通り。魂とは一つの固まりではない、それは常に形を変えながら、どこにでも現れる。それを受け止める者との間にあるものだ。」

サン・ジェルマンは再び目を開いてイピを見据えた。

「君は、やはりゼーランドの人間だな。私には理解できない。魂は不変だ。君と私、私と他の人々、私と神。これらは互いに個として存在する。」

 イピは、地球に生まれた宗教の弊害を感じた。個を主張する考え方には神すらも契約の対象でしかないのだ。

「人が死を迎えたとき、魂が不変であるというのは地球に固有の考え方だ。人が生まれ変わり、死に変わるということもない。人は現在にのみ、ある。」

 伯爵は厳しい顔つきになった。

「私がゼーランドを去ったのはそれが理由さ。アヒムサカ大老を知っているだろう。彼とは一度会ったきりだが、丸一昼夜話した。討論と言った方がいいかも知れない。彼の話はことごとく私の期待を裏切るものだった。」

アヒムサカ大老の話になると、イピの顔がこわばった。苦手なのだ。

「すっかり忘れていたよ。人に出会って、あんなに恐ろしい思いをしたのは初めてだ。あれでゼーランドを去る踏ん切りがついたのだ。」

「確かに大老の姿は恐ろしい。特にあの目に見つめられるのは怖い。」

イピは相づちを打った。

「姿など問題ではない、それにあの眼差しは真実を希求するものだ。私は大老と不死性について話した。私と大老とでは生に対する思いが全く違うのだ。その相違点はことごとく私の信念を打ち砕き、否定するものだった。私はそれが恐ろしかったのだ。」

アヒムサカとサン・ジェルマン、ともに不死性を持った二人の人物がどのような話をしたのか。ヌーク・ガイは強い興味を持った。ヌークには他にもう一人死にきれずにいる友がいる。

「例えば、大老はこう言った。もし、生まれ変わりがあるというのなら、おまえの愛した者が再びおまえの前に現れるはずである、一度でもそれを確認したことがあるか、とね。私は、いいえと答えた。そのあとで、もう少し待てば現れるかも知れないと言い替えた。」

ヌークは伯爵の孤独がよくわかった。伯爵の肩に手を置き、柔らかく握った。サン・ジェルマンの信念を塗り替える必要はない、ヌークは話題を変えた。

「伯爵、あなたはそれほど多くのことを知りながら、なぜ僕の仲間を攻撃したのですか。」

「実はあんなに簡単に術がかかるとは思っていなかったのだ。あの男にはいい経験になるだろう。ほら、これをあげよう。これを飲めば目が覚める。トカゲの胃液とカブトムシの糞をネズミの尿でといたものだ。これは冗談だよ。私の調合した気付け薬だ。」

 伯爵はそう言って、茶色の小さなガラス瓶をヌークに手渡した。

「師よ、なぜ、これまで話してくださらなかったのか。」

 カリオストロがやっと口を開いた。その言葉には明らかにに非難の響きがこもっている。

「嘘をつかなくていい相手に出会って、ほっとしたのだよ。いいかね、私が何千年も生きていると、正直にしゃべったとする。一体、誰が信じるのだ。私は、ベルサイユの貴族どもにそう吹聴してまわったが、それを心から信じているものなど一人もいない。私は、自分自身のことについて友人と話をするときがつらかった。何しろ、本当のことを言うことが、信用を失う事になるのだ。」

 イピは、伯爵の絶対的な孤独感を改めて感じた。

「その木箱には、かなりの情報が入る。マスコットを再起動して情報を移し替えておこう。」

コイルマンからの贈り物を手渡しておくのである。この申し出に、伯爵の顔は輝いた。

「すばらしい。是非たのむ。失われた文明について、アトランティス、レムリア、ムー、についての情報が欲しい。私が宙導師界について知っていることは、その木箱に全部整理してまとめてある。それを全てコピーすればいい。」

 イピが再起動させる前に、小鬼のイメージが立ち上がった。

「まかせろ。きれいにまとめて送り込むから。」

 小鬼の姿は、ウエーブした髪や瞳の色にコイルマンの面影が残っていることが分かった。

イピとヌークは、伯爵と打ち合わせをしながら、木箱に情報を移していった。作業は順調で、手を動かしながら会話が弾んだ。

夕方になって、二人は、明日またくると言った。

「君たちとは、これでお別れだ。実に有意義な一日だった。長い人生の中でもっとも輝いた一日かも知れない。」

 イピもヌークもこれには驚いた。

「僕たちはまだまだあなたと話がしたい。」

「私は、長く生きられる。またどこかで会うかも知れない。いや、きっとそうなる。明日また君たちに会うと、ずっと引き留めておきたくなるよ。これでお別れだ。」

 伯爵は、目に涙を浮かべていた。イピとヌークは伯爵と固く握手を交わした。再会を約束して二人は歩いて屋敷から離れていった。振り返ると、伯爵は笑顔で彼らを見送っていた。イピの目が、なみだでぼやけてきた。

 二人は、無言でエレーヌとラグの待つ宿に帰っていった。