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アダーはトリアの台頭を掲げて同志を募った。 ヒュンデミをはじめとする護衛者を束ねて反対者を粛正し、トリアス第七議会を一新したことは、最初の一歩に過ぎなかった。アダーは第七議会を他の六つのトリア議会の中心に位置させることを計画した。そのための地下結社を組織して、トリアードと名付けた。トリアの先鋭的人物を集めて組織の拡充を図る一方で、小さな酒場や町の寄り合いにまで足を運び、自分の考えを説いて回った。 「優れた技術を持ちながら貧しい暮らしに甘んじる必要はない。ジェラスを見よ、ジェラ族の豊かな生活を支えているのは自然の恵みに他ならない。彼らには、特別な技術など何もないのだ。トリアスの生み出した技術がジェラやシャパスばかりを豊かにしていく。トリア族には僅かな手間賃しか落ちてこない。」 アダーは今日も小さな会合に足を運んで語りかけた。アダーの主張はトリア族の耳に心地よいものだった。 このころ、ドウ王は各地の格納庫から粘土板の記事を紙に写し取って一般に公開する方針を打ち出した。粘土板の公開はアトシスの知識人たちを中心に熱烈に歓迎された。その恩恵はアトシス全体に及ぶことを知って一般の支持者も増えつつあった。 アダーはその政策に猛烈な反対を唱えた。トリアスの粘土板は他の地域の物とはかなり性格が異なっていた。アダーの主張は続く。 「人の一生に成し得ることなど、どれほどのものがあるだろう。例えば、どこそこの妻を娶って子供を三人育てた。一生畑を耕して働いた。どちらも結構。遠くの地方から来た。あるいは行って来た。よその地域の粘土板には大抵そのような内容が書いてある。どうでもいいようなことでも、また、平凡な一生でも、ずっと後の時代に読むと歴史としては面白い。ところが、トリアスの粘土板は違う。ある粘土板には琥珀を油で溶かして塗料にする方法が書かれてある。また別の板には撚糸の効果的な撚り上げ方が書かれてある、一生かかって練り上げた技術が惜しげも無く書き込まれてあるのだ。これは子孫への財産として書かれたものだ。興味本位で読まれるべき物ではない。」 アダーはトリアスの粘土板を公開することで、トリア族の知恵を勝手に運用されることを怖れた。技術の誤用による弊害を知らず、効果ばかりを求める輩の存在も示唆した。 トリアでは新しい技術の導入に極めて慎重な態度をとる。新技術のもたらす弊害を占うための先進技術の教育を受けた巫女までいる。いかに効果的な技術であっても実際に運用されるためには、長い試用期間を経なければならない決まりがあった。 「私はジェラスに長く留まったことがある。そのときは、後ろ暗い仕事を専門に行う結社の手先として潜入した。ジェラスは豊かで良いところだ。また、ジェラ族は無邪気で開放的だ。しかし、彼らは子供と変わらない。トリアの粘土板が彼らの教科書になったら、何もかも食い散らかして後に残るのは大量のゴミだけになるぞ。トリアは失うばかりで、手元には何も残らないのだ。」 アダーの主張はトリアの技術集団から熱烈な支持を受けた。秘伝の技術はどの集団にもあった。それを公開してしまうことは集団の存続を放棄することと同じだった。 アダーはセーバという有能な賛同者を得ていた。セーバは、アダーの主張とトリアードの存在価値を数多くのトリアの職能集団に説いて回った。 アダーの支持者は確実に増えていった。六芒星の中心にひとつの点が描かれた印がトリアードを表すようになったのはこの頃のことである。 ガイはひと夏をパオで過ごすことになった。村では子供たちも立派な仕事を受け持っている。羊の世話の手伝いと薪集めが主な内容である。ガイも他の子供たちと一緒に生活するのだ。 ガイはパオの子供たちと一緒に、河べりの流木拾いに行った。年長の子供が中心となって一日分の薪を拾い集めると、あとは遊びの時間になる。大河の岸に出来た水溜りが恰好の遊び場所である。パイクという魚をとって遊ぶのだ。 「おまえも川に入れ、魚が来たらその棒で殴れ。」 カーという少年がガイに木の棒を手渡しながら言った。 「噛みつかれると痛いぞ。」 ガイはこっくりと頷いた。 水溜りは砂地の浅い池となっている。浅瀬にガイを含めた小さな子供を並べ、年長の子供たちが深いところから輪になって魚を追い上げる。おのおのが手に持った棒で水面を叩き、徐々に浅いほうに追っていく。 水面を細長い銀色の魚が跳ねた。へびのように体をくねらせて泳いでいる。何匹ものパイクが小さい子供たちの方に向かった。水深が浅くなるにつれて、魚の腹が底につかえて泳ぐスピードが落ちる。一匹のパイクが背びれを水面から突き出してガイの方に泳いできた。体を激しくくねらせて水しぶきを上げている。ガイはそれを眺めていた。間近で見る銀色の背びれがきれいだと思った。突然、足首に鋭い痛みを覚えた。パイクがガイの足に噛みついていた。ガイの頭の中で青白いスパークがはじけた。ガイは棒を放り出して、自分の足を噛ませたまま魚の胴体をつかんだ。魚は激しく暴れてガイの手から逃れようとした。ガイは全身のバネを使って、パイクを岸に放り投げた。 「噛まれたら、痛いから大抵は逃げるんだ。自分の足をエサにしてパイクをつかまえたのは初めて見た。」 カーの言葉で、子供たちはガイの首尾に満足した。ガイは足首の血が滲んだパイクの歯形が誇らしく思えた。誇らしさを感じたのはそれが初めてだった。 シェロは久しぶりに羊を追い、草原の風景に溶け込んだ。ここにいる間はジェラートの煩雑な仕事を忘れていられる。シェロに近寄ってきた少女がいる。その顔立ちからすぐに父親が分かった。 「ジェラスの話を聞かせてくれませんか。」 少女はアーロと名乗った。 「アリーもこちらに来たいと言っていたんだが、ジェラートの仕事で手一杯だ。」 アーロはアリーの子である。生まれてから一度も父親の顔を見ていない。 「ジェラートについては交易業者から聞いています。」 話しぶりから、早熟で頭の良い少女であることが分かった。シェロは問われるままに、ジェラスの話を聞かせた。 「一度、ジェラスに行ってみたい。」 アーロは東の空を見ながら言った。 「いつでも連れて行く。」 シェロは優れた博士から教導を受けられるようにすることや、学習期間の生活保障をする準備があることを伝えた。これはアリーからの伝言であったが、シェロ自身にもその気持ちがあった。アーロはシェロからみても同族である。 「兄さんがいなくなったから、私がここに残らないといけないの。」 「そうか。」 「男の子をよその村にやってしまうとは思い切ったものだ。」 「シェビーダはアリーを手放したくなかったと言っている。イラーダが悪いのよ。」 少女の顔に怒りが現れていた。アリーの教育方針をめぐって一族の間で何らかの対立が起きたことが想像できた。 「ジェラスの話を続けましょう。他にも色々聞きたいことがある。」 アーロは、話題を変えた。子供ながら、実にしっかりとした娘だった。シェロは父親の話を少しも聞きたがらないのが気にかかった。 雨の降る日だった。シェビーダは羊の乳を用意して、ピチェの子供たちを呼び集めた。この地方の雨は少ない、降ってもせいぜい半日ぐらいのものだ。ところが子供たちにとっては半日もパオの中で待っているのは苦痛なのだ。シェビーダは気分転換をさせてやるためにこうやって子供を集める。これは族長として子供たちを観察する意味もあった。 シェロが久しぶりにパオに戻った晩、シェロとの間でこのような会話が交わされた。 「なんと、ガイはジェラスの王に祭り上げられるのか。」 シェビーダはシェロの話に目を剥いた。 「地方長官が執念を燃やしている。」 「王はラゾに一人居ればよい。ジェラスに王など必要ない。」 「最初は俺もそう思った。しかし、この十年でジェラートは信じられないほど強力になった。今では何もかもがジェラートを中心に動いている。この機能を存続させるためには、アリーと同等の後継者が必要だ。」 「まったくあの男はろくな事をせん。ジェラートなどという厄介な魔物を造ってしまった。ジェラートなしでは日も暮れんと言うことか。トリアスの秘密結社と似ているが、トリアスの場合はいくつもの職能団体が事の始まりじゃ。それ故に、いくつもの組織が互いに牽制して巨大組織に膨れ上がることがない。ジェラートはラゾのように陽のあたる場所でもなく、暗い力ばかりが膨らんでゆく。ガイが不憫じゃ。可哀想じゃのう。」 「トリアの方が何かにつけて一枚上手なのか。」 「少なくとも合理的な考えが根付いている。」 シェロにとってトリアは陰険で唾棄すべき種族であった。 「アトシスの民は流浪の民じゃ。その証拠に顔を見ただけではどこの出身かわからん。ガナックとジェラがわずかに肌の色が違っているが、あのアリーにしても数代遡れば、まず間違いなくトリアの血が混じっていると思うぞ。マイにしてもそうじゃ、マイはシャパスから来たと言うておった。粘土板をたどってみよ。運が良ければ何十代もの祖先が明らかとなる。もっともその作業に一生を費やす覚悟があればの話じゃ。」 「俺にはジェラの血も混じっているか。」 シェビーダはシェロを見た。その視線は強く、厳しかった。 「ジェラートに籍を置いているがために、ジェラとの血のつながりを確認しておきたいのか。シェロや、小さな型にはまった考えをするようになったのう。それも、日々の仕事に追われて心の自由を失っておるからじゃ。アトシスの民は流浪の民と言うたばかりではないか。儂が血のつながりを重んじるのは共に生活をするという前提がある。ジェラと共に生きているならそれが血よりも濃いつながりではないのか。」 相変わらず大した婆さんだぜ、シェロは心の中で舌を巻いた。一方で、ジェラスに渡って良かったと思った。ここに残っていたらシェビーダに一生頭が上がらない、いや、今でも上がったとはいえない。 「婆さん、一生の頼みだ。ガイを何とかしてやってくれ。ジェムホーの町ではガイの名を阿呆と同じ意味で使うんだ。俺はそれが悔しい。頼む。」 「儂は何もするつもりはない。しかし、孫の頼みとあれば、一つ教えておこう。ガイはここで目覚める。目覚めさせるのは子供たちじゃ。」 そのガイがシェビーダの手渡した羊の乳を飲んでいた。一月足らずでガイは傷だらけになっていた。 「なぜ、ガイがそのように傷だらけになっておるのだ。いじめたのか。」 シェビーダは年長の子供たちの名を呼んで厳しく問い質した。名を呼ばれた子供は飛び上がって緊張した。シェビーダは恐い存在だった。一族の掟を守らないものは容赦なく追放される。子供でも例外ではない。ここではシェビーダが掟だ。 「黙っていてはわからんぞ。では、カー。説明せよ。」 カーはいつも子供たちの代表だった。身振りを交えて懸命に説明した。 ガイの傷は牡羊に突き倒されたり、岩場から滑り落ちたりした傷であるという。他にも木から落ちた傷、毒蜂に刺された傷と、ありがちな子供の怪我であることが分かった。 「そうか、わかった。仲良くしてやれ。」 「みんな、よくしてくれる。」 ガイが珍しく口を開いた。非常に無口なのである。ガイの目が言葉よりも多くを語るせいかもしれない。 シェビーダは明らかな手応えを感じた。ガイの頭の中には巨大な龍が眠っている。初めて見たときそう直感した。それが、目を開き、大きな首をもたげようとしている。 「ここは楽しいか。」 「たのしい。」 もしもこの言葉をジェラスの教師たちが聞いていたら、ガイの何かが大きな進歩を遂げたことに驚くところだ。 ガイの頭に住んでいる龍。それは目も耳も閉じたまま昏々と眠り続けてきた。このところその体をしきりにつつくものがある。龍はその度、うるさそうに体をよじる。 眠いのだ、邪魔をするな。 ところが、騒々しい雰囲気はおさまらない。仕方なく龍は片目を開けた。 そばかすだらけのカーの顔がある。 「ガイ、大ウナギを釣りに行く。おまえも来るか。」 「おおうなぎ?」 「ああ、危ないから大人でも滅多に行かない。腐った沼に住んでいて俺たちより太い胴体をしている。」 ガイは興味を持った。面白そうだし、どんな怪物か見てみたい。 「行く。」 「よし、今日は小さい子は連れて行かない。おまえだけ特別だ。」 「うん。」 ガイはカーの行くところに必ずついて行くようになっていた。 年長の子供たちは沼に出かけた。パオから少し離れた場所で河から少しはなれた場所にある。河の水位が上る時に流れ込む水が、澱み、腐っている。 軟らかい土の上を歩くと、しゅう、と臭いガスが吹き出す。 ロープの端に新鮮な羊の骨を結びつけて、濁った水の中に放り込む。大ウナギは貪欲で水辺にやってくるネズミや野ウサギを襲って食べている。さばいたばかりの羊の骨は、ウナギを釣るエサだ。 水面をのたうつ黒い波が現れた。 「みんな、引け。」 子供たちはあらかじめ打ち合わせていたとおり、ロープをつかんで沼の外に向かって一斉に走った。皆、後ろを見ながら走る。水面を羊の骨が波紋を立てて引かれてゆく、その後をのたうつ波が追いかけてくる。 「うわーっ。」 誰からともなく声が上がる。このスリルが面白いのだ。大ウナギが水面に顔を覗かせて追うのをあきらめた。黒い頭に真っ赤な斑点が毒々しい。 一度でお仕舞いにするには惜しい遊びである。子供たちは大ウナギがあきらめる地点を覚えておき、最小の運動量で最大のスリルを味わえる方法を考えた。あまり逃げずに近くでウナギを見るためである。 大ウナギは苛ついていた。エサが目の前を逃げていく上に、水辺にはもっとうまそうなエサがたくさん走り回っている。 子供たちは再度ロープを投げ、大ウナギが来るのを待った。 なかなか現れなかった。退屈して注意力が失われた頃、突然、目の前に黒と赤のまだら模様が現れた。今度の大ウナギの動きは異常だった。まっすぐに子供たちをめがけてくる。子供たちはあわてふためいて、転び、這いずって逃げた。大ウナギは方向を変えた。羊の骨に食いついた。ロープが、沼に引き込まれてゆく、それは速い動きだった。 ガイの目の前で一人の子供が悲鳴を上げた。ロープが足に絡んでいる。子供はずるずると水に引き込まれていった。慌てて周りの子供たちが押さえた。ガイは青くなった、何とかしたい。 「ロープをほどけ。」 誰かが叫んだ。足に食い込んだロープは容易にほどけない。ガイの頭の中で激しい火花が散った。 「ロープを切れ。」 ガイは確かにそう叫んだ。子供たちはパニックに陥っていた。ガイの意識に再び激しい閃光が散った。ガイがロープに向かって駆け出そうとしたとき、カーが一足早くロープに飛びついた。腰に下げてあったナイフを引き抜いて、ロープにぎしぎしと擦り付けた。濡れたロープは切れにくい。カーが先に泥の中に引き込まれた。大きな赤黒いものが泥の中をすべるように進んで、カーの足をくわえた。 カーの姿が泥の中に消えて水面が静かになった。 ロープは切れていた。足にロープを絡めたまま、助かった子供は大きく口を開けて泣いた。ガイは目を大きく開いて腐った沼を見つめ続けた。 パオは悲しみに包まれた。カーが死んだ。 誰もが、カーを誉めた。しかし、ガイはカーを誉めたくはなかった。年上だったが、生まれて初めての友達だった。唇を固く結んで宙を睨んでいる。 カーに任せきりにせず、自分も飛びつけばロープは切れたはずなのだ。ガイの腰にはシェロからもらった剃刀よりも鋭い切れ味のナイフが下げられてある。これなら、たとえ濡れたロープでもざっくりと切れたのだ。ガイは自責の念に苛まれた。 シェロは、ガイの肩をつかんだ。 「おまえはよくやった。」 「僕が死なせてしまった。」 ガイは確かにそう喋った。シェロは、仲間の死がガイの心を大きく揺さぶっているのを感じた。自分自身を責め、仲間の死を悲しんでいる。 シェロはガイの緑の瞳をのぞき込んだ。 シェロの心にガイの悲しみが、怒濤のように流れ込んできた。 ガイの中に眠っていた感情量は圧倒的であった。シェロはその大きな波にすくわれた。 ガイはいっそう無口になった。羊が草を食んでいるのを見つめていると、アーロがガイを見つけて近づいてきた。 「羊が好きなの?」 アーロはガイのそばに座った。ガイは押し黙ったまま首を横に振った。 「羊はかわいい。子羊は特にね。」 アーロは、ガイの横顔を見つめながら話した。視線を感じてガイは、アーロを見た。茶色の瞳と栗色の髪がとてもきれいに見えた。ガイはアーロの両腿に顔を埋めて泣いた。 当初の予定よりも早くシェロとガイはジェラスに戻ることになった。 シェビーダは二人を見送るためにブノワ河を下る荷船に乗り込んだ。波止場まで同行すると言う。 夏の日差しが河の水面に光っていた。 「シェロよ、次におまえがパオに戻る折には儂はもうこの世におらんじゃろう。」 荷船から河を眺めながらシェビーダが言った。 「寂しいことを言うなよ。近いうちにまた来るさ。」 「いいや、儂の勘は誰よりも鋭い。この頃はますます研ぎ澄まされてきた。死期が近い証拠じゃ。今回はよう戻った。ガイにも会えたしの。」 シェロは言葉に詰まった。 「ジェラートをつくってしまった以上、腐らせぬようにせよ。ガイは立派なジェラスの首長になるじゃろう。ひょっとしたらラゾの王になるかもしれん。ドウ王よりも立派な王にな。」 「ジェラスの長官が聞いたら喜ぶだろうな。ジャバというんだが、ジェラ族から王を出したがっている。継王に関して百回以上も占ったらしい。ガイがラゾから招かれなくてもジェラスで王の候補者と同等の教育をするつもりでいる。」 シェビーダの顔が曇った。 「愚かなことをするものじゃ。アトシスの王についてはラゾでのみ占うべきじゃ。力のある占い師と祭事官の執念がガイのような子供を生んだ。だいたいジェラスの王という考え方がおかしい。王は一人でよいのだ。」 「アリーが王になり損ねたことが、よほど悔しかったのだと思う。」 「王にならない方がむしろ良かったのじゃ。トリアが排除しようとした理由が分かる。アリーが王になっていたら、トリアの薄暗い部分をどんどん改革しようとしただろう。また、それが出来る能力がある。アリーはドウ王を陰から助けてやっておる。また、トリアスにも圧力をかけている。この状態が現在に於いては一番良いと思う。」 「婆さんは偉い。俺にはとても真似が出来そうにない。」 シェビーダは、けけと笑った。 「アーダは良い娘を生んだ。アーロじゃ。儂が死んだ後はアーロを訪ねてやれ。」 シェビーダはそれだけ語ると、ガイの相手を始めた。歌を唄い、船縁から手を伸ばして川面を流れる水草の花を摘んだ。泥の色の水に咲く薄桃色の花だった。 その歌と花の色はシェロの心に永く残った。 |