アナログ用語の基礎知識

  ●平衡(バランス)入力

 HotとCold、アースの3本の線で接続する入力の事で、ノイズに強い入力回路です。

下図は電子回路での平衡入力の基本回路です。もちろん、トランスを使っても平衡入力は実現できます。
 また、Hot側、Cold側のどちらもグランドと接続することでアンバランス入力にもなります。


Hot入力に入った信号はそのままの位相で出力されますが、Cold入力に入った信号はアンプのマイナス入力につながれているため、反転して出力されます。

簡単に式で表現(ゲイン=1)すると、
(出力)=(Hot入力)-(Cold入力)
となります。

 この回路に入力される信号は、平衡した信号でHotとColdが逆相ですから、
(Cold入力) = -(Hot入力)
と表現され、出力には(Hot入力)の2倍の信号が現れることになります。これを「差動ゲイン」と言います。

ところが、平衡していない信号は
(Cold入力) = (Hot入力)
となり、出力には出てこないことがわかります。これを同相ゲインと言います。

 なお、上記の回路には入力インピーダンスがHot入力とCold入力では異なるという問題があります。


 「ノイズは不平衡でやってくる」というのが電子回路の建前ですから、同相ゲインが低く差動ゲインが高い方が優れた平衡入力回路と言うことになります。 この同相ゲインと差動ゲインの比を「同相成分除去比」と言います。

なお、上記の回路は説明のために最も簡単かたちで表現しています。実際の回路は、位相補正が入っていたり、入出力にコンデンサが入っていたりします。
 マイクの増幅用のヘッドアンプでは、上記の回路の前にさらにアンプが必要となります。

注:ノイズは不平衡でやってきてくれるほど、親切ではありません。 詳しくは「ノイズ・バスターズ」を参照してください。

平衡(バランス)出力

 平衡入力に信号をバランスで送るための、HotとCold、アースの3本の線で出力する方式のことです。
 入力とは違い、平衡にしたからといって、出力回路がノイズに強くなるわけではありません。

 特殊な用途をのぞいて、ほとんどが電子式平衡出力になっています。これは、トランスよりもオーディオ特性が優れているからで、グランドまで完全に絶縁しなければいけない様な特殊な用途ではトランスを使った方が安全でしょう。

 下図は電子回路での平衡出力の例です。 この回路は、Hot側でもCold側でもグランドに接続することで、アンバランス出力にできるうえに、バランス出力の時と信号レベルが変わらないという特徴があります。

注: この回路は一般的に使用されているものですが、私はあまり好きな回路ではありません。フィードバックルートが複雑すぎ、条件によっては安定しにくい回路です。

  ●XLR

 キャノンコネクタと呼ばれる3ピンコネクタの型式です。
ロック機構が付いていてケーブルを引っ張っても抜けないように工夫されている点と、簡単な構造の割にはぐらつきが少なく、マイクなどに使用した場合でもハンドリングノイズが出にくいことが特徴です。

 また、プロフェッショナルオーディオで一般的な3ピンの平衡信号も扱える事もメリットの一つです。ただ、値段が高いのが残念です。

 使用できる電流値も、3A程度ありますので、スピーカー用のコネクタとして使われている場合もあります。 ただ、ケーブルにマイクケーブルを使うと、電圧降下が発生してしまい、音量が下がってしまうことがありますから、安易に使ってはいけません。ノイトリックなどのスピーカー用コネクタを使うのが良いでしょう。

 メスのケーブル側に使用するコネクタです。一般的には入力側に使われます。 ケーブルを固定するネジは抜けやすいので、ペイントロックをしておかないと、断線などのトラブルの原因となってしまいます。
 
 オスのケーブル側に使用するコネクタです。一般的には信号の出力側に使用されます。 ピンとケースを止めているネジは小さい物ですから、時計用ドライバなどの小型のドライバを用意しましょう。
 
メスの機器側に使用されるコネクタです。一般的には入力側に使用されます。
[PUSH]と書いてあるロック解除部分がはずせるタイプの物もあります。この部分は曲がってしまいやすいのですが、外した後でラジオペンチなどでなおしてやる事もできます。
 
オスの機器側に使用されるコネクタです。一般的には出力側に使用されます。


注:XLRコネクタには3ピン以外にも2ピン、5ピンなどがあります。

  ●RCAピンジャック


 家庭用オーディオ機器に使用されているコネクタです。

 家庭用機器では、アナログ信号、デジタル信号、ビデオ信号など何でもピンジャックですが、色分けされているおかげで混乱する事はありません。
 ちなみに、白がオーディオの左チャンネル、赤が右チャンネル、オレンジがデジタルオーディオ信号、黄色がビデオ信号です。

 プロフェッショナルオーディオでは、キャノンコネクタやフォンジャックが主流ですので、コンソールなどの民生機器をつなぐ為の入出力以外には使用されません。
 このピンジャックの機器の入出力ケーブルは、あまり引き延ばさない方が良いでしょう。バランス伝送ではありませんから、ノイズが乗りやすくなるのはもちろん、民生機器では出力ケーブルの容量成分によって発振してしまうものもあります。

 キャノンコネクタとの変換ケーブルを作る場合は、カナレ社などのしっかりしたピンジャックを使用しましょう。ケーブルもある程度太くないと、ケーブルの固定ができません。

 ピンジャック(機器側)の太さは微妙に細い物もあり、プラグ(ケーブル側)が削り出しで作られている物を使用した場合、グランドが浮いてしまう物がありますから、注意してください。

注: 私の場合、民生用のチャンネルデバイダでLowが浮いてしまい、スコスコの音になってしまった事があります。
  ●フォンジャック

 ヘッドフォンなどに使われているものです。 直径が6.3mmのものを指すと考えて良いでしょう。 困ったことに、メーカーによっては、「複式ジャック」だの「TRS」だの勝手な呼び方をしてくれるので、カタログを読む時には注意が必要です。
 写真はチップ(先っちょ)とスリーブ(長いところ)のアンバランス用ですが、ヘッドフォンのようにリング(短いところ)があるものを使うのが普通です。

 信頼性の方はキャノンに比べればいまいちですが、安価な事もあって多用されています。ただ、マイクケーブルとスピーカーケーブルにフォンジャックを使うのは考え物です。スピーカーケーブルにキャブタイヤケーブルが使われていたりすると、見た目にはわかりませんし、間違ってスピーカーへ行く線をマイク入力に差し込んだりすると、とんでもないことになりかねません。

 また、コンソールのインサーションなどに使われる場合、入力と出力を兼用にしている物もありますので、内部の接続を良く確認してから接続することが必要です。

 こちらは「ミニジャック」です。 家庭用オーディオではこちらが主流になってしまいました。 直径は3.5mmです。


 プロの現場でお目にかかることは少ないとは思いますが、ポータブルMDなどは結構便利なので、ミニジャックとキャノンコネクタの変換ケーブルも用意しておくと良いかもしれません。 ただ、ミニジャック側の信頼性には期待できませんから、ジャックの抜け防止をした方がベターです。

 こちらは直径が2.5mmのジャックです。一般名称が何であるかはわかりません。



 プロの現場でお目にかかることはまずないでしょうが、デジカメの出力に使われていたり、リモコンに使われていたり、いまだ健在です。

  ●ファンタム電源


 コンデンサマイクなど、電池が必要な機器にコンソール側から電源を供給してあげるためのものです。

 これがあれば、マイクの電池を気にしなくて済みますので、大変便利です。
 電圧は48Vで、これは電話の規格から来ています。 コンソール内部は15Vから22Vで動いていますので、専用の電源を内蔵しているのが普通です。

 どうやって電源を供給しているかというと、入力のホットとコールドに48Vをかけ、グランドを0Vにすることで実現されています。 入力回路に直流電圧をかけて大丈夫かという疑問もあるかと思いますが、直流電圧はコンデンサでカットされていますから、心配する必要はありません。
 ただし、相手がライン機器の場合、相手の機器にダメージを与えることもありますから、むやみにONしてはいけません。

 注意すべき点は、グランドリフトができないことです。相手がマイクですから、グランドループの心配はまずありませんが、DI-BOXなどで他の機器にバラ分岐されている場合には注意が必要です。

 また、ファンタム電源をON/OFFするときに「バン」と言う大きなノイズが出ますから、フェーダーだけでなく、AUXセンドやモニターを絞っておかないと、スピーカーを飛ばす事があります。 このノイズが出ないようにスロースタートをさせることもできるのですが、本物のコンデンサマイク(エレクトレットでないもの)では、うまく動かないこともありますから、過信しない方がよいでしょう。

 なお、ファンタム電源はアンバランス接続では使えないと考えた方がよいでしょう。アンバランス接続にすると、電源がグランドとショートすることになりますから、コンソールが壊れる様な設計はされていないでしょうが、あまり気持ちの良いものではありません。

注: 「相手の機器に与えるダメージ」とは、相手の機器の出力回路の最後につけられているコンデンサの耐圧オーバーの事です。 通常、内部の電源電圧は22Vまでですから、コンデンサには35V耐圧の物で十分なのですが、間違ってファンタムをつながれる事を想定すると、63V定格の物が使う必要あります。すぐに壊れるというものではありませんが、たびかさなるとノイズ(バサバサという音)が増えることがあります。

  ●バス


 ミキシングコンソールで、グループセンドやAUXセンドなどの信号が通る回路のことです。この部分で音がミキシングされます。


 「バス」と言う名前は、たくさんの音が混ざって乗ってくるという意味で、「自動車のバス」から名前が付けられています。

 回路的には「加算器」と言う回路の一部分のことで、アンプ部分は「サミングアンプ」と言います。 バスは多い方が扱える出力系統が増えて良いのですが、コンソール自体も大きくなりますから、当然値段も上がってしまいます。 おまけにアナログコンソールの場合、ノイズに弱くなる傾向にありますから、周辺機器の設置には注意してください。
 特に誘導性のハムノイズに弱くなりますので、コンソールの真下にパワーアンプをひっつけて置くのはやめましょう。 パワーアンプから漏れた磁界でハムノイズが発生してしまいます。

  ●ヘッドルーム


 基準信号レベルからどれだけ大きな信号が扱えるかを示す数値です。SN比などと同じくdB(デシベル)で表されます。

 車で室内の高さを表現するとき、「ヘッドルームも充分」などと言いますが、このヘッドルームと同じく、ミキシングするときの余裕と考えて良いでしょう。 このヘッドルームを越えたとき、音が歪み始めますから、まさしく「頭(head)打ち」状態になるまでの余裕(room)です。

 さて、どれくらいが普通であるかというと、+4dBが基準レベルである場合、+20dBぐらいが普通だと考えて良いでしょう。 これは回路の電源電圧を±15Vとした場合の計算値で、電源電圧が上がればもう少し大きくなります。
 特に入力回路のヘッドルームは重要です。入力回路が歪んでしまうと、後の回路でいくらレベルを下げても歪みは直りません。 こういった事をなくすために、マイク入力回路には「トリム」というアンプのゲインを変えるボリウムがあるのが普通です。
 ゲインを下げればヘッドルームは大きくなりますので、音は歪みにくくなります。

ヘッドアンプで歪んだとき



 このヘッドルームは、入力だけでなく、出力、バスなど全ての回路でバランス良く設定されていることが重要で、どこか1カ所だけ良くても意味がありません。

バス(サミングアンプ)で歪んだとき


  ●ヘッドアンプ


 コンソールの入力部分のアンプのことで、マイクレベルから増幅できる物を指します。

 最近のコンソールでは電子バランス方式が主流で、ノイズが少ないことが大切です。
このため、他の回路とは異なり、一部トランジスタが使用されることがあります。
また、ノイズに強いことも大切で、同相成分除去非(CMRR)が高いことも重要です。


 実際のオペレーションでは、ヘッドアンプでなるべく音を大きく増幅した方が、SN比は良くなります。 すべてのフェーダが0dBで適当な音量が得られるように調整するのが良いでしょう。

 ただし、大切なことはヘッドルームを十分に考慮しておかないと、ヘッドアンプでクリップ(音がひずむ)しますので、ゲインのあげすぎはいけません。

  ●ダイナミクス


 アンプの増幅率を変化させて効果を得る回路の総称です。

 クリップを防ぐためのコンプレッサーや、ノイズを取るためのノイズゲート、音に抑揚をつけるためのエキスパンダーなどがこれに属します。

 おおむねVCAを使用した物が多く、ひずみ率が悪化する傾向にあります。 ただ、クリップを防ぐためなどの目的には、背に腹が変えられない事情もあり、使用に消極的になる必要はありません。
 ただし、クリップを防ぐ目的のコンプレッサーに、過大な信号が入力された場合はひずんでしまいますから、過信してはいけません。

注:昔のコンプレッサーやリミッターには Cds という部品が使われていました。これは光を当てると抵抗値が変化するという部品で、暗くなると電灯が自動的に点灯する様な用途に今でも使われています。
 この部品はオーディオ特性も非常に良いのですが、反応速度が遅いため、今では使用されることは少なくなっています。


  ●VCA


 電圧(Voltage)制御(Controled)増幅器(Amp)の略で、制御電圧の変化に応じてゲインを変化させることができるアンプです。

 フェーダグループや、ダイナミクス(コンプレッサー)などに使われる回路で、コンピュータと接続すれば、自動ミキシングも可能となる便利な回路です。

 このアンプは便利である反面、特性の良いものを作ることは大変困難なことです。音質面ではひずみ率が単純なアンプに比べ悪くなる傾向にあります。

注:別名、トランスコンダクタアンプとも言います。

  ●コンパンダー


 コンプレッサーとエキスパンダーを組み合わせた言葉です。dbxの様な動作だと理解しておけば良いでしょう。

 この回路は、ダイナミックレンジの狭いメディア(テープや電話線やワイヤレスマイク)のダイナミックレンジを見かけ上広くする為に使用されます。

 特にワイヤレスマイクなどの無線機器では必ず必要と言っても良いぐらい便利な回路です。
 無線機器は電波法やFCCにより使用できる周波数と変調度合いが厳密に決められていますので、これを守らないと製品は出荷できない事になっています。

 しかし、プロオーディオの用途には十分な帯域とはいえず、ダイナミックレンジが十分に確保できません。
 そこでコパンダーを使用してダイナミックレンジを広げてやるというのが、一般的です。

注:dbxを想像すればわかるとうり、まともに設計すればかなりの回路規模になるのですが、NE571などのワンチップ化されたICがありますので、コンパクトに作ることはできます。
 ただし、特性もそれなりでブリージングなどの細かいツメが完全にはできないのがデメリットです。


  ●ディスクリート


 電子回路をオペアンプなどのICを使わずに、トランジスタや抵抗などのバラバラの部品で構成していることを意味します。

 ヘッドアンプなど、オペアンプでは十分な特性が得られない回路では、ディスクリートで作るのがメーカーの腕の見せ所です。 もっぱら音へのこだわりを示すコトバとして受け止めるの素直な読み方です。

注:ディクリートだからといって、すべての特性が良いわけではありません。電圧オフセットやCMRRなどはオペアンプの方が簡単に良い特性が得られますので、音にこだわったからと言って、回路すべてをディスクリートで作るのはマニアのお遊びです。プロはもっとドライでなくっちゃあ。

  ●オペアンプ


 オペレーショナルアンプの略語です。

 アナログ増幅の基本となるICで、これ一個で電子バランス回路やサミングアンプ、イコライザーなどが作れます。

 2個入りや4個入りがあり、回路をコンパクトに作る上でも有利なICです。この業界では「5532」神話が根強いのですが、600Ω負荷に耐えられる点と、電源電圧が多少高くとれる点を除いてあまりこだわる必要はありません。

 ヘッドアンプはディスクリートで作るのが基本の様な風潮にありますが、個人的にはアナログデバイセス社の AD797 は一度は使ってみたいICです。IC内部のチップの写真はホレボレするような美しい物です。

注:「一個で」とは言っても、もちろん抵抗やコンデンサやボリゥムを含んでのお話です。

  ●ロー送りハイ受け


 低周波アナログ伝送の基本です。

 ここで言う「ロー」「ハイ」はインピーダンスのことで、出力側の機器はローインピーダンスで送り、受け側の機器はハイインピーダンスで受けると、ロスが少ないと言うことです。

 たとえば、インピーダンスの非常に高いクリスタルマイクなどを600Ωのトランスで受けると、信号レベル(電圧)が下がってしまい、音にならなくなってしまいます。

 昔はトランスで送り受けしていましたので、インピーダンスの高い物、低い物がいろいろあって、混乱する事もありましたので、「教訓」的な意味でこの様なコトバが生まれたのでしょう。

 最近の機器ではほとんどが電子化されていますので、なにも考えずにつないでも、まず問題になることは無いでしょう。

  ●インピーダンス

 

 電子機器が持つ内部抵抗のことで、「妨げる物」という意味です。

 電子回路の考え方の基本は、理想的な部品が寄り集まって、ある回路ができているという考え方です。
 電子機器の出力や入力を、理想的な状態で表すと下図のようになります。



 この様に理想的な部品につながった、機器内部に存在して邪魔をしている抵抗のことを「インピーダンス」と言います。

 この抵抗は、オペアンプなどの部品そのものに内蔵されてしまっている抵抗と理解してください。
どんなに努力しても絶対零度の超伝導状態にならない限り、無くなることはありません。

 このインピーダンスは、周波数によって変化しますから、音がナローレンジ化してしまった場合など、このインピーダンスの影響を探ってみるとよいでしょう。

 解決策は、DIをかます以外にはありません。

注:電子回路的な表現をすれば、「理想電圧源」です。


  

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